「人間失格」

人間失格」を読んだ。今まで途中で投げ出していた本だ。

太宰は、ネガティブな想いをとても繊細に鋭く表現していた。漠然とした不安や恐怖を、ものの見事に表現してくれるので、逆に爽快感さえ覚えるほどだ。これが名作として評価されるということは、誰の心にも、大なり小なり同じようなものが蠢いているということなのだろう。
この世に生まれたということは、全てのものとのつながりを一度断ち切ったということだ。それゆえの不安、それ故の恐怖が必然的にわき起こってくるのかもしれない。
人に近づきたいが、怖くて近寄れない。
それゆえに自分を演じ、またそれゆえにヘトヘトに疲れてしまう。
対人恐怖の心理なのかもしれない。
あまりに共通点が多く、それゆえ今まで読むのを避けていたのかもしれない。
でも、そういうふうに感じているのは自分だけじゃないんだ、ということを知ると、逆に安心する。
漠然とした不安感を言語化してもらうと、すっきりする部分もあるのではないか。
見えないお化けは恐ろしいが、白昼のもとにさらされるとその恐怖は減ずる。
表現の仕方がうまい。同じような語り口で小説を書きたくなるような文体だ。
ポジティブで幸せに生きたいものだが、ネガティブを知らないと、ポジティブの意味もわからなくなる。
不幸の海に漂うのも、たまにはいいのかもしれない。
溺れなければ。