「宇宙神霊記」P96

チャネリングしやすい状況をも生み出せる漫画家という素晴らしい職業を、もう少し詳しく書いてみましょう。
次々と新しい作品を創造していく漫画家は、アイデアやネーム(吹き出しのなかのセリフ)を考えたり、絵を描いたりする段階で、完璧に精神を集中させます。
そして、ペンと紙だけで大恋愛や大冒険の世界をつくりあげていくのですが、この制作中にじょじょに雑念がなくなっていき、ポンとクリーンな精神状態に入ります。
いわゆる自我の忘却状態です。
この雑念が切れた状態を、私は「壁一枚を超える」と呼んでいます。
しかし仕事で長時間座っていると、最初のうちは頭が痛いよ、目がしょぼしょぼする、肩が凝ってつらいよ、などとさんざん文句をいっているわけです。そのうえ、締切がどんどん迫ってきて、睡眠時間をけずるようになっていくことにもなります。
ところが、ある瞬間から先になると、それまでの体の感覚みたいなものがポンッとなくなってしまう。本当になにもかも忘れてしまうんです。
このクリーンな精神状態を具体的に説明するのはむずかしい面があります。が、自分が日本人であるとか女性であるとか、さらには美内すずえであることまで、忘れてしまいます。
そうなってくると、空腹さえ感じなくなってしまう。
だから、別に食べなくても飲まなくても平気な状態。
それが嵩じてくると、トイレにもいかなくなって、ある種の極限状態がやってくるんです。
それが、心がクリーンになった状態、つまりチャネリングしやすい状態というわけです。
そうなると、私の心は解きはなたれて、自由自在に動きはじめます。
そして今度は汲めども尽きぬ泉のように、求めていたアイデアやネームが湧きあふれてきます。
北島マヤが、月影千草が、速水真澄が、いきいきと動きはじめてくれます。
セリフはそれぞれの気持ちにならないと書けないんですが、瞬時に私ひとりで何役もやれてしまう状態。
パッパッパッと何人もの気持ちに切りかわって、セリフといっしょに映像も浮かんできます。
だから、その次元までいけば、私はただ心に浮かんでくるものを紙の上に描いていくだけでいいのです。
北島マヤがしゃべったとおりにネームを書き、動いたシーンを見て絵を描く。よく考えてみると、誰かに描かされているみたいにも思えるときがあります。
この完全集中状態を自我の忘却、「壁一枚超える」と表現しているのです。
日常生活と非日常生活との間にある壁を越えないと、創造の神は微笑んでくれないようです。